2019年9月29日日曜日

1810「最先端技術3」2019.9.29

NHK総合テレビ NHKスペシャル2019年5月4日(土曜日)21:00~21:50
「寝たきりからの復活~密着!驚異の”再生治療”~」
 札幌医科大学で20年間研究を重ねてきた「再生医療」。札幌医科大学は20年前から再生治療(再生医療)の研究を続けるトップランナーです。札幌医科大学(北海道)には、日本全国から重症の脊髄損傷を負った患者さんが運ばれて来るのです…。
 3年前の2016年8月…遠く三重県から首に瀕死の脊髄損傷を負ったKさん(67歳・男性)が運ばれてきました。自力で呼吸は出来ず、人工呼吸器でかろうじて命をつなぐ状態…。Kさんの担当は、札幌医科大学・整形外科の山下俊彦先生と森田智慶先生らです。
 脊髄とは脳から背骨を通って全身の神経と繋がる大切な情報通路。もし脊髄が損傷すれば脳からの命令が全てストップし、手足の麻痺はもちろんのこと、心臓や肺などの内臓の制御も出来なくなってしまいます…。
 Kさんは作業中、車から足を滑らせ落下、首の脊髄を激しく損傷しました。Kさんの場合は自律神経の働きが低下し内臓も危ない状態。脊髄損傷に陥る人は毎年およそ5000人居るといいますが、その多くが一生寝たきりの状態に…。突発的な事故はいつ起きるか解りませんから私たち誰もに可能性のある病気なのです。
 このままではKさんは一生寝たきりの可能性が高い…。娘さんはお父さんのため懸命に情報を調べ、札幌医科大学で再生医療の治験が行われていることを突き止めました。治験とは国が安全性を審査する際に行う最終テストのこと。治験に合格すれば健康保険が適用され、誰もが治療を受けられる様になるのです。札幌医科大学では20年前から再生医療の研究を行っており、近年ようやく最終テストとなる「治験」までこぎ着けたのでした――。
 再生医療というと山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したiPS細胞が有名ですが、実は私たち誰もが様々な臓器に変身可能な(iPS細胞に似た)「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」という細胞を持っています。間葉系幹細胞を脊髄から取り出し培養して患者に戻します。すると損傷した部分に集まってその部分の臓器に変身し再生を始めるのです!

 間葉系幹細胞を投与すると、若い人であれば早くて翌日には変化を見せ始めます。まず第1段階としてすぐに弱った神経細胞を活性化します。その後数ヶ月間、壊れた神経細胞を修復し続けます。さらに3ヶ月以上経つと新しい神経細胞に変化して脳からの命令をより強く伝達するようになると考えられています。札幌医科大学・整形外科の山下俊彦先生によれば、「従来、神経は一回やられると治らないということだったが研究の結果、我々が再生方法を知らなかっただけで神経の再生は可能だった…」と結論づけました。
 2016年8月。Kさんが転院し事故からは54日が経過しました。この日、Kさん自身の骨髄液から1億個まで培養された間葉系幹細胞を点滴によってKさんの体に戻されました…。
幹細胞の投与は後にも先にもこの1回限りとのこと…点滴のみで大規模な手術も一切ありません。
間葉系幹細胞の投与から1週間後 … 人工呼吸器を外す。外している間は自分の肺で少し呼吸が出来るようになった
2016年10月…投与から2ヶ月後 … 顔色が良くなる。しかしものを飲み込む力が戻らず栄養食を鼻からチューブで摂る
間葉系幹細胞投与から2ヶ月+数週間後 … 水が飲み込めるように。皮膚の感覚、肛門の反応がよみがえってきた
間葉系幹細胞投与から7ヶ月後 … 人工呼吸器が外れ、待望の声が戻った!
2017年7月(投与10ヶ月後) … 三重県の自宅により近い、和歌山県立医科大学へ転院。腕が動くようになりリハビリ開始
2017年10月(投与13ヶ月後) … 和歌山県立医科大学にてきついリハビリ。動いていなかった右側の横隔膜が動き出す
投与2年2ヶ月後 … ついに自宅に戻る。手足はまだ動かないがこれからのリハビリに期待。飲み込み、呼吸能力はほぼ回復した

 今回の治験を受けた患者さんは13名。そのうちもっとも重症だった1名をのぞき12名に1ランク以上の回復を確認しました。残る1名も呼吸能力の回復を確認。また、問題となるような副作用は誰にも現れませんでした。この結果を受け、札幌医科大学・整形外科の山下俊彦先生は、「今までは受傷直後は回復するかもしれないがんばって!と言っていたが1月経つと回復は難しいかも知れない…と患者さんに言っていたが、今後は明るい道が開けてきた」といいます。
 国は今回の治験の結果を受けて”7年間の条件付き”で健康保険適用を認可。(7年経った段階で再度評価する予定だそうです)その結果今年(2019年)5月からは健康保険の適用が認められました。札幌医科大学の塚本泰司理事長は、記者会見で「今後の再生医療に新しい一歩を踏みだした」と話しました。
 ただし幹細胞を培養するメーカー(ニプロが担当)では幹細胞の数に限りが有るとのこと。
 そのため2019年度は当面札幌医科大学のみで実施、年間100名の患者を受け入れることになりました。ニプロの箕浦公人・再生医療事業部長によればまずは慎重に立ち上げ今後日本国内に広げる計画です。
 当面治療対象は培養可能な数に限りが有ることから制限されます。脊髄を損傷して30日以内の重症患者で、受傷後2週間以内に札幌医科大学へ入院が可能な人に限られるとのこと。この治療の成果を見ながら7年後に再び国が審査することになっているそうです。
 研究チームでは現在、受傷から時間が経った慢性期の患者でも研究を続けていて将来的には脊髄損傷を受けた多くの人が日本全国で治療できるような状況にしたいと考えているそうです。さらに脊髄の再生だけでは無く、脳細胞の再生への研究で、脳梗塞や認知症の治療に繋げたいと考えているそうです。