今回はIn Deepさんの2024年10月30日の記事を紹介します。
人体は「全身が異物への防御壁として機能するメカニズムを持つ」のだから、ウイルス対策としては「何もしない」のが最善であることの説明 - In Deep
「人体は「全身が異物への防御壁として機能するメカニズムを持つ」のだから、ウイルス対策としては「何もしない」のが最善であることの説明」
ウイルスとバクテリアへの恐怖症候群
前回、子どもの免疫を発達させるには、「泥や土で汚れるのが最も効果的」だという医学記事をご紹介しました。
現代社会に広く巣くっている「過度な衛生観念」に関しての問題点は、過去(ほぼコロナ前)に何度もご紹介させていただいています。
2010年にピューリッツァー賞を受賞しているニューヨークタイムズの記者の「私たちの環境は衛生的すぎる」という長編記事を 2019年4月のこちらの記事で紹介しています。その記者は、さまざまなインタビューや過去のデータから記事を書き上げていましたが、その中に出てくるアメリカの医師は以下のようなことまで言っています。
デンバーの皮膚科の医師であるメグ・レモン博士は、以下のように述べている。
「床に食べ物を落としたなら、それを拾って食べてください」
「抗菌作用のある石鹸をご家庭から排除して下さい。子どもたちに予防接種を受けさせるのは問題ありません。ただし、その場合、子どもたちは汚いものを口に入れる生活習慣をしている必要があります」
より良い免疫システムを獲得するのためのレモン博士の処方はこれだけでは終わらない。
「鼻はほじるだけでなく、ほじったものを食べるべきです」とレモン博士は言うのだ。
indeep.jp
アメリカでは 1900年代初頭から「消毒ライフ」が定着していったようですが、消毒の拡大と共に、いかにアレルギーが拡大していったかなども記しています。
この中にあるギャラップ社の世論調査によると、これは 1998年の調査ですが、アメリカ人たちは以下のように考えていたとあります。
1998年のギャラップ社の世論調査より
1998年のギャラップ世論調査によると、アメリカの成人の 66%がウイルスや細菌を心配していると答え、40%が「これらの微生物が蔓延していると考えている」と述べた。 26%が、身体と皮膚をウイルスや細菌から保護することが必要だと考えていた。
これが最近なら、もっと高い比率だと思われますが、こういう土壌があったからこそ、パンデミック中の過剰な衛生行動も比較的すみやかに広がったのだと思われます。
日本人も、このウイルスや細菌への過剰反応指数は相当な率だと思われますけれど、これらの行動は「結果として、特に子どもたちの免疫力を落としている」ことは、前回の記事で書いた通りです。
また、米シカゴ大学の微生物生態系の科学者であるジャック・ギルバート教授という人の主張について、こちらの記事で書いていますが、ギルバート教授は、明確に以下のように述べています。
質問:親たちの考えや行動で間違っていることは何ですか?
ギルバート教授:間違ったことのひとつは、住んでいる環境を過度に消毒、滅菌してしまうことです。これによって、子どもたちは病原菌で汚れてしまうことができなくなってしまうのです。
また、裏庭で外遊びをして泥がついた時に、すぐに汚れを洗い流し、殺菌して、顔からも手からも汚れを排除してしまうことがありますが、それも同じように良くはありません。
質問:手の消毒剤はどうですか?
ギルバート教授:通常は良くありません。殺菌作用のない石鹸水は大丈夫です。普通の石鹸なら、子どもの健康に与えるダメージはそれほど大きくはありません。
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これは今から 7年前の記事で、その後、コロナの渦中でもギルバート教授が同じ発言をしていたかどうかは不明ですが、どんなことであっても「基本は同じ」はずです。
特に子どもは、あらゆるウイルスや細菌に暴露され続けていなければ、免疫の発達がなされないわけですけれど、
「そもそも、人体には強力な異物へのバリアが備わっている」
という驚異的なシステムを、現代の人たちはあまり重視しません。ただボーッとしているだけでも、私たちの体は、ウイルスや細菌を相当防いでいるのです。
そのことを私たちは「忘れさせられてしまっている」ように思います。
それについて少し書かせていただきます。
全身に抗菌メカニズムを持つ人類という存在
コロナ時代でいえば、たとえば「マスク」というのは常に議論の対象になってきましたが、ちょっと前の記事のフタル酸エステルとマスクについての関係など「有害性」のことはともかくとして、マスクは、
「人体構造から見て、感染症対策として間違っている」
のです。
たとえば、マスクで覆われるのは、主に「口」と「鼻」だと思います。まあ、かつては、目のあたりまでマスクで塞いでいる人たちもいましたが、口と鼻に、どんな殺菌効果があるかご存じでしょうか。
口の殺菌・抗菌作用
これはその大部分が「唾液」に集約されます。
以下は、米メリーランド大学の研究者たちによる 2019年の「唾液の力:抗菌作用とその先」という論文からです。
論文「唾液の力」より
重要なのは、唾液には過酸化水素、ラクトフェリン、リゾチームなどの抗菌化合物が豊富に含まれているため、微生物種に対する防御に不可欠であるということだ。
その結果、味覚、咀嚼、嚥下への影響に加えて、唾液分泌の乱れは口腔カンジダ症、歯周病、虫歯、呼吸器感染症などの口腔疾患の頻度を増加させる。
…したがって、唾液には、特に口腔内の微生物、常在菌、病原体に対する防御において、有益な保護特性と治癒特性が無限に蓄積されていることが明らかになっている。
PMC
口に関しては「唾液が最初の抗菌バリア」なのです。
この概要に出てくる、唾液に含まれるという過酸化水素、ラクトフェリン、リゾチームはそれぞれ以下のようなものです。
唾液に含まれるもの
過酸化水素
過酸化水素は、化学式 H2O2 で表される化合物。主に水溶液で扱われる。対象により強力な酸化剤にも還元剤にもなり、殺菌剤、漂白剤として利用される。wikipedia.org
ラクトフェリン
ラクトフェリンは、母乳、涙液、唾液、血液、粘液等の分泌液や好中球に分布する鉄結合性糖タン白質で、感染防御に必要な成分です。ヒトの初乳に特に多く含まれ、乳児におけるウイルスや細菌などの感染を防ぐ重要な成分です。 orthomolecular.jp
リゾチーム
リゾチームは細菌の細胞壁を構成するムコ多糖類を加水分解する酵素(タンパク質)であり、各種の細菌に対し溶菌作用を示します。自然界に広く分布し、卵を始め動物の体液・組織(涙、唾液、鼻汁、血液等)や植物に至るまで広範囲に存在する生体防御物質です。kewpie.co.jp
唾液には「三重のバリア」が築き上げられているわけです。
リゾチームの説明のところに、「涙、唾液、鼻汁、血液等」とありますが、つまり涙や鼻水も「ウイルス等への防御のメカニズム」を内包させていることになります。
大塚製薬のサイトには、「涙の役割」の中のひとつとして以下が書かれています。
感染を防ぐ
目に入った異物は涙によって洗い流されます。また、涙にはリゾチームという殺菌作用をもった物質が含まれており、微生物の侵入や感染を予防する働きをします。otsuka.co.jp
「涙は女の化粧水」という瀬川瑛子さんの歌がありましたが、そんな役割だけではないのです。
ともかく、口では唾液、鼻では鼻水、目では涙、これらすべてが抗菌の作用を常に持っているわけです。そう考えますと、「寒くて乾燥してくると、鼻水や涙が出やすくなる」というのも理にかなった生体の働きだと思います。そういう時期に風邪などが流行しますから。
何より鼻には「鼻毛」があります。
> 鼻毛でウイルスや大きめのほこりはブロックされます。また、粘膜からはネバネバした粘液が出てチリや細菌、ウイルスを絡めとります。 (大阪府豊能町の保健福祉センターのウェブサイトより)
そして、何より重要な「大きなバリア」は「鼻の奥」にあります。
強い抗菌作用を持つ一酸化窒素を生産する副鼻腔
これは、2020年11月の「鼻呼吸の不足による「一酸化窒素の消えた人体」の将来」という記事の「鼻呼吸をしないことが極めて人体に悪いメカニズム」というセクションで取り上げていますが、人間は基本的に「鼻呼吸をするのが望ましい」のです。鼻呼吸を主体にしないと、感染症に弱くなるのです。
大人の場合、マスクをしていても鼻呼吸はできるかもしれないですが、小さな子どもでは、マスクをつけての鼻呼吸は事実上無理です。
これも、大阪府豊能町の保健福祉センターのウェブサイトで知ったことですが、アクセスしますと、今はページが存在していませんでしたが、当時は以下のように書かれていました。
殺菌効果:副鼻腔
副鼻腔では常時、一酸化窒素が産生されています。一酸化窒素は殺菌作用があるため、気道を清浄に保ち、病原菌などから体を守ってくれます。さらに、一酸化窒素が肺に運ばれることで、肺と心臓の血液循環の一助にもなります。
一酸化窒素は非常に優れた抗菌作用を持ちます。
本来なら、鼻から息を吸うことで、一酸化窒素を体内に常時取り込み、ウイルスなどの病原体を殺すということになるわけなのですけれど、マスク等による口呼吸が優位になることで、この両方の作用がなくなってしまうわけです。
というか、2022年の米ハーバード大学の研究は、もっとストレートで、
「人間は、ただ呼吸するだけでウイルスを殺すメカニズムを持つ」
ことを突き止めています。
こちらの記事に翻訳があります。
> 呼吸の行為が侵入する病原体を殺す免疫応答を生成することを明らかにした
というもので、その効果も著しく、以下のような数字があげられています。
> 呼吸運動にさらされた肺胞チップは、静的チップと比較して、肺胞チャネルのウイルス mRNA が 50%少なく、炎症性サイトカインレベルが大幅に低下していた。
人間は普通に呼吸しているだけで「ウイルスを殺している」のです。
さらには、全身を覆っている皮膚も、全身で抗菌バリアとして機能しています。
以下は、2018年1月18日のプレジデント誌に掲載されていた医学博士の故藤田紘一郎さんのインタビューからです。
2018年1月18日のプレジデントより藤田紘一郎さんの言葉
人間の皮膚には、表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の「皮膚常在菌」という細菌がいて、私たちの皮膚を守ってくれています。
彼らは私たちの健康において、非常に重要な役目を担っています。皮膚常在菌は皮膚から出る脂肪をエサにして、脂肪酸の皮脂膜をつくり出してくれているのです。
この皮脂膜は、弱酸性です。病原体のほとんどは、酸性の場所で生きることができません。つまり、常在菌がつくり出す弱酸性の脂肪酸は、病原体が付着するのを防ぐバリアとして働いているのです。
皮膚を覆う弱酸性のバリアは、感染症から体を守る第一の砦です。
president.jp
ですので、「手を洗いすぎたり消毒しぎたりすると、これらの常在菌の保護作用がなくなる」わけです。すなわち、手の消毒を徹底すればするほど、感染症に対して脆弱になってしまう。
ちなみに、このプレジデントの記事のタイトルは「"手を洗いすぎる"と風邪を引きやすくなる」というものでした。
なお、藤田紘一郎さんが勧める手の洗い方は、
「両手を軽くこすりながら、流水で10秒間流す」
です。
もちろん、石けんは使いません(それをやると元の木阿弥)。
このような感じで、人体は全身が抗菌バリアで包まれているのです。
これが、免疫の状態が普通であれば、「何もしない」のが最も望ましいウイルス対策だといえる根拠です。
今は免疫が普通の状態ではない人が多いかもしれませんので、何もしない方法でも何らかの感染症にかかってしまう場合も多いかとも思いますが、社会の免疫状態が「普通」だった頃なら、何にもしないのがベストだったはずです。
しかし、まだ免疫の崩壊に苛まれていない子どもたちの場合は、今後の生活環境で、強い免疫と抗菌防御を獲得できるチャンスはまだまだあると思っています。
・過度な衛生観念からの脱却
・人体の本来の防御機能を損なうことをしない
ということを行うだけでも、強い免疫と防御能力を獲得する子どもたちがたくさん出てくると考えています。
すでに、関東などもずいぶんと寒くなってきまして、これから冬になるにつれて、感染症の流行はますます大きくなっていくと思いますが、「どんな感染症でも対応方法は基本として同じ」はずです。
そして、体内には、さまざまな免疫細胞と共に、V(D)J組換えと言われる驚異のウイルス防御システムも私たち人間は持ちます。
人間にはこれだけ多くの、そして優れた防御壁がそろっているのですから、その素晴らしいメカニズムを信じて、「普通に生活する」ことが大事だと思います。その中でも、風邪を引いたりすることもあるかもしれないですが、それはそれです。
どんなことにしても、外部的な防御ではなく、人間がもともと持つ生体防御のメカニズムを私たち自身がもっと理解して、それを信じるべきだと強く思います。