今回はIn Deepさんの2025年12月22日の記事を紹介します。
「暗黒時代ではなく「滅亡」に突き進んでいる」
暗黒時代ではなく「滅亡」に突き進んでいる - In Deep
中世ヨーロッパの暗黒時代の直前とほぼ同じ
アメリカの保守派の政治評論家で、カリフォルニア州立大学フレズノ校の名誉教授など多数の肩書きを持つビクター・デイヴィス・ハンソン氏という方が、「暗黒時代が再びやって来るのか?」というタイトルの記事を寄稿していました。
ハンソン氏は保守派である上に(今でもそうなのかどうかはわからないですが)『トランプの擁護論』という著作まで出しているトランプ派の人物ではあり、内容には、やや一方的な面はあるのですが、ひとつひとつの文章の断片は、「新しい暗黒時代に入る予兆を正確にとらえている」と思います。
それらのフレーズについては、後半で補足させていただくとして、それほど長い文章でもないですので、まずはご紹介させていただきます。
________________________________________
暗黒時代が再びやって来るのか?
Can the Dark Ages Return?
Victor Davis Hanson 2025/12/18
西洋文明は紀元前8世紀のギリシャで勃興した。 400年にわたる暗黒時代、無学で曖昧な時代を経て、約 1,500の都市国家が誕生した。
この混沌は、ミケーネ文明の宮殿文化が完全に崩壊した後に起こった。
しかし、再び現れたのは立憲政治、合理主義、自由、表現の自由、自己批判、そして自由市場であり、現在私たちが独自の西洋文明の基盤として知っているものだ。
ローマ共和国はギリシャのモデルを継承し、強化した。
共和国とそれに続く帝国は千年にわたって西洋文化を広め、最終的にはキリスト教と切り離せないものとなった。
大西洋からペルシャ湾まで、ライン川とドナウ川からサハラ砂漠まで、西暦 5世紀に西ローマ帝国が崩壊するまで、100万平方マイルの地域に安全、繁栄、進歩、科学が広がっていた。
その後、およそ西暦 500年から 1000年にかけて、ヨーロッパで第二の暗黒時代が続いた。
人口は減少し、都市は浸食され、ローマの道路、水道、そして法律は崩壊した。
古代ローマの属州に代わって、部族の族長と領地が出現した。
かつてはローマ法によって辺鄙な地域の農村住民も保護されていたが、暗黒時代には壁と石だけが安全を保つ手段だった。
ついに 11世紀末に、ギリシャ・ローマ文明の複雑な世界の古い価値観とノウハウが徐々に復活した。
このゆっくりとした復興は、後にルネッサンス、宗教改革、そして最終的には 17世紀から 18世紀の 200年にわたるヨーロッパ啓蒙主義の時代における人文主義者や科学者によって活性化された。
現代のアメリカ人は、私たちの現在の文明が西洋で 3度目の自滅を起こし、貧困と残酷さに満ちた暗黒時代が続くなどとは誰も信じていないだろう。
しかし、部族主義への回帰、そして、かつての、科学、テクノロジー、法の支配の喪失の原因は何だったのだろうか?
歴史家たちは社会崩壊の原因をいくつか挙げているが、それらは今日では忘れがたいほどよく知られている。
人間と同じように、社会も老化する。そして、自己満足が生まれる。
西洋を築き上げた勤勉さと犠牲は、富と余暇も生み出した。しかし、後世の人々にとって、こうした豊かさは当然のものとなった。成功を生み出したものは、やがて無視され、あるいは嘲笑の対象にさえなった。
支出と消費は所得、生産、投資を上回っていた。
子育て、伝統的価値観、強固な防衛力、国への愛、宗教心、実力主義、経験主義の教育は消え去った。
自治権を持つ市民からなる中流階級は消滅し、社会は少数の領主と多数の農民に二分された。
部族主義、つまり人種、宗教、あるいは共通の容姿に基づく文明以前の絆が再び現れた。
国家政府は地域的および民族的な飛び地に分裂した。
国境は消え、大量移民は抑制されず、古くから蔓延する反ユダヤ主義という脅威が再び姿を現す。
通貨はインフレし、その価値と信頼を失う。行動、発言、服装、そして倫理観における粗野さが、以前の規範に取って代わった。
交通、通信、インフラはすべて衰退した。
必要な薬が病気よりも悪いとみなされるとき、終わりは近づいていた。
これが西暦 450年頃の西ヨーロッパの生活の様子だ。
現代の西洋も同様の危険信号を発しているかもしれない。
ほぼすべての西側諸国において出生率は 2.0を大きく下回っている。
公的債務は持続不可能な水準に近づいている。ドルとユーロの購買力は大きく低下している。
大学では、西洋の過去の知識人の功績を尊重するよりも、非難する方が一般的だ。
しかし、平均的な西洋人、特にアメリカ人の読解力と分析力は着実に低下している。
一般の人々は、エンジニアや科学者のエリート集団が作り上げる、かつてないほど洗練された機械やインフラを操作したり理解したりできているのだろうか?
国民は、国境を守ろうともせず、集団防衛に十分な資金を費やそうともしない、腐敗したエリート層への信頼を失っている。
治療法は軽蔑される。
私たちは、悪化の一途をたどる財政赤字、持続不可能な債務、腐敗した官僚機構や公的給付制度といった問題に取り組む勇気があるのだろうか?
改革について言及するだけでも、「貪欲」、「人種差別的」、「残酷」、さらには「ファシスト」や「ナチス」と中傷される。
現代では、絶対的な価値観に代わって相対主義が台頭し、ローマ帝国末期の不気味な再現となっている。
批判的法理論では、犯罪は実際には犯罪ではないと主張される。
批判的人種理論は、社会全体が陰湿な偏見の罪を犯しており、金銭による賠償や入学・雇用における優遇措置を要求していると主張される。
サラダボウルのような部族主義が、古い人種のるつぼの同化、異文化適応、統合に取って代わった。
現代のアメリカははるかに裕福で、はるかに暇で、はるかに科学的であるにもかかわらず、ニューヨークを歩いたり地下鉄に乗ったりすることは 1960年より現在のほうが安全だろうか?
今の高校生の数学の得意度は、70年前と比べてどうだろうか?
映画やテレビは 1940年代の方が面白くて高尚なものだっただろうか。それとも今の方が面白いだろうか。
1955年当時において一般的だった核家族、両親揃った家族は、現在は一般的だろうか?
私たちの周りの社会全体が不安定になっているように見える中でも、私たちはこれまで以上に長く健康な生活を送ることができて幸運ではあるかもしれない。
しかし、西洋は歴史的に見て、独特の自己内省と自己批判を持っている。
歴史的に見ると、暗黒時代への逆戻りよりも改革とルネサンスの方が一般的だ。
しかし、衰退を治す薬には団結、誠実さ、勇気、行動が必要だが、これらは現在ソーシャルメディアや大衆文化、そして政治家の間で不足している美徳となってしまっている。
________________________________________
ここまでです。
これはアメリカの話としていますが、西側世界全体の共通項目も多く、この中のいくつかの部分と参考資料などを提示させていただきます。
ネアンデルタール人の道をたどっている
まず文章に、
> およそ西暦 500年から 1000年にかけて、ヨーロッパで第二の暗黒時代が続いた。
という部分があります。
この暗黒時代に先駆けて何が起きたかというと、この時も実は「大幅な人口減少がヨーロッパで起きた」のです。
これは、以下の記事などで取りあげたことがあります。
・地球では「絶滅に先んじて人口減が起きる」 : ローマ帝国、古代ギリシャ、ネアンデルタール人…これらの滅亡に共通しているのは「出生率の減少」だった。なら今の地球は
In Deep 2019年6月5日
以下のような下りを抜粋しています。
ローマ帝国の衰退と崩壊
皇帝たちは、独立性と独創性において「逆優性」の立場を取り、子孫を作ることに熱心ではなかった。そのため、社会の中で子どもを作るのは、当時の奴隷の人たちが中心となっていった。
そして、ローマ帝国の総人口は、西暦 100年ころから急激に減少し始める。
最終的にローマ帝国が崩壊に向かう時には、出生率の低下を伴った。特に、上流階級の間で出生率が低下した。また、乱交や中絶、あるいは間引きが乱発した。
人口が減少する中で、ローマの兵士にローマ人以外が据えられ、皇帝にさえもローマ人ではない人物があらわれた。また、皇帝たちは性的な倒錯にとりつかれた。
古代ギリシャと古代ローマを研究する現代の歴史家たちは、これらの文明の衰退の始まりには、出生率の低下を伴っていたことを述べる。多くのギリシャ人やローマ人が、子どもを産み育てるということを望まなくなっていた。
先ほどのIn Deep の記事には、ネアンデルタール人も、「若い女性が子どもをつくらなくなった」ことにより、最終的に絶滅したという論文をご紹介していますが、これはあくまで学説的な推定です。
出生率の急激な低下の時代から暗黒時代にいたるまで、中世のヨーロッパで 400〜 500年くらいかかかり、ネアンデルタール人の滅亡では、4000年から 10,000年かかったと考えられていますが、今は物事が進むのが早いですからね。
おそらく、今起きている出生率の急速な低下は、人類史上で最速であり、また減少の規模も歴史的に非常に大きいはずです。
出生率の急激な低下の様子は、過去 50年くらいの記録を見ているだけでも十分にわかります。
世界全体だと、ちょっとグラフがゴチャゴチャしますので、以下は、アジアの代表的な国の出生率の推移です。
アジア諸国の出生率の推移(1970年〜2016年)
2016年までと、やや古いデータですが、それからそんなに変わっていないですので、特に問題はないと思われます。
タイや韓国では、1970年代のはじめには、合計特殊出生率が、5 に近いほどだったことがわかります。つまり、1人の女性が生涯で 5人の子どもを産むのが平均だったと。
なお、少子化や人口減の問題について語られる時には、必ず「経済」とか「格差」とかの言葉が出てきますが、それが根本的な問題ではないことは、グラフで示されているように、これらの国のこれらの時代は決して裕福ではありませんでした。それでも、「激しい少子化など起きなかった」ことからもわかります。
かつてのヨーロッパでは、特に上流階級に単に「子どもを産むのがイヤにになった」という人たちが増えたというところも、おおむね今と同じだと思われます。
現在のヨーロッパはほとんどが合計特殊出生率 2未満で、西側諸国には人口動態的な意味では先行きはあまりありません。
西側諸国の知的レベルの低下
先ほどの、ビクター・デイヴィス・ハンソン氏の文章に、
> 平均的な西洋人、特にアメリカ人の読解力と分析力は着実に低下している。
とありましたけれど、これも最近よくふれることですが、特に子どもや若者を中心に、読解力、数学力、認知能力、さらには「記憶能力」の低下が著しいです。
比較的最近の「何が子どもと若者から「知能と自我」を剥奪しているのか?」という記事では、アメリカのハイレベルの大学生たちの基本的な学力低下が著しいことが示されている記事をご紹介しました。
記事より
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の驚くべき最新の報告書によると、新入生の授業準備がかつてないほど遅れていることが明らかになった。特に数学において、新入生の学習準備の急激な低下が顕著だ。
UCSD の報告書によると、2020年から 2025年の間に、高校レベル以下の数学力を持つ生徒の数は 30倍近く増加している。さらに、これらの生徒の 70%は中学レベルより低い(小学生レベルという意味)。
indeep.jp
さらには、最近のメルマガでも取りあげたのですが、アメリカ全国「成人識字率」統計という統計が発表されていて、
「アメリカ人のうちの 1億3000万人の成人が、小学5年生レベル、あるいはそれ以下の識字力しか持たない」
ことが判明しています。
正確にいうと、レベル 1〜 5に段階わけされる、この識字率調査は、
> レベル1は、ほとんど読むことも理解することもできない
となっているのですが、そういう成人が 4500万人いる。
そして、全体として「小学 5年生と同レベルかそれ以下の識字率を持つアメリカ成人の率」が成人人口の 54%に達していたということでした。
読解力や数学力はともかくとしても、これは「識字率」の調査です。
子どもにまで拡大すれば、全米教育進歩評価の調査結果によると、現在のアメリカの子どもたちの「 3分の 2が字が読めない」ことが判明しています(翻訳記事)。
アメリカの9歳の「読解力」の平均スコアの推移
BDW
ヨーロッパも同様となっている可能性があります。
スウェーデンでは、国立教育庁の統計により「学生の 25%が正常な読み書きができない」ことが調査で判明しています(翻訳記事)。
日本も、ここまでひどくはないとはいえ、「 2021年を起点とした深刻な学力低下」が継続しています(報道)。
日本の小学6年と中学3年の学力の推移
朝日新聞
ここでは、「なぜこんなことになったのか」ということにはふれません。それにはいくつかの要因(スマートフォン、AI 、あるいはパンデミック対策の余波)が考えられるとはいっても、どれが最も強力な要素かを結論付けられる材料は今のところないからです。
原因より、「現実としてこうなっている」ということです。
多くの若い人たちが、子どもどころか結婚も望まなくなり、かつてない認知力と読解力の低下に苦しんでいるという現状。
今は、暗黒時代に入る前のヨーロッパと、ほとんど同じ状況となっているのです。暗黒時代というより、ネアンデルタール人のように、人類(一部の人類)の滅亡レベルの話なのかもしれません。
そして、今のところ、この流れを食い止める力や方法はどこにも見当たりません。


