2024年10月13日日曜日

3579「ホワイトノイズが微生物の育成を促進する」2024.10.13

 今回はIn Deepさんの2024年10月03日の記事を紹介します。


「8000Hzのホワイトノイズが微生物の育成を促進する…という論文から思い出すさまざまな「音」のこと」

https://indeep.jp/sonic-restoration-2024/


「音」が生物に与える成長促進と修復

科学誌サイエンスを見ていましたら、「特定の音が微生物の成長を促進することが判明した」という記事がありました。

その記事のサブタイトルは、

「植物に優しい微生物は、実験室でホワイトノイズにさらされると同種の微生物よりも成長した」

というものです。

ここにある「植物に優しい微生物」というのは、トリコデルマ菌というもので、これは以下のような有用な微生物であるようです。

…有害微生物の一面もあるトリコデルマ菌ですが、その性質を活かして他のカビによる病害を防ぐなど、生物殺菌剤としてさまざまな病気の抑制のために利用されています。トリコデルマ属菌によって制御できる植物病害には根腐れ病、萎凋病、果実腐敗病などが挙げられます。

kaku-ichi.co.jp

このような微生物が、「特定の音のもとで成長が促進される」という内容でした。

「音と生物、あるいは人体との関係」というのは、以前からかなり取り上げさせていただくことがあったテーマですが、とりあえず、そのサイエンスに掲載されていた記事をご紹介します。その後、過去記事で取り上げた「音」に関するさまざまな現象について振り返ります。

論文そのものは以下です。

音響修復:音響刺激が植物の成長を促進する菌類の活動を高める

Sonic restoration: acoustic stimulation enhances plant growth-promoting fungi activity

なお、研究で使われた音は、「 8000Hzのホワイトノイズ」とありまして、どんなものなのかなと探してみましたら、「耳鼻科領域」の動画などにいくつかありまして、たとえば、「【耳鼻科医が作った耳鳴用】8000Hz帯域ノイズ」などにあります。やや甲高いホワイトノイズですね。耳鳴りなどで感じることのあるとされるキーンという音にも聞こえます。

ここから記事です。

その菌は良い雰囲気を感じると活発に成長する

This fungus grows more vigorously when it feels good vibes

science.org 2024/10/01

植物に優しい土壌微生物は、実験室でホワイトノイズにさらされると、同種の微生物よりも成長した。


ここに写っている真菌性土壌微生物トリコデルマ菌は、毎日30分間ノイズにさらされると、ノイズにさらされていない微生物より大きく成長し、胞子をより多く生成した。

 

私たちは、お気に入りのプレイリストの音楽を大音量で流すと、活動にエネルギーがみなぎる。菌類にも同じことが言えるが、ほとんどの人にとっては菌類の音楽の好みは少し奇妙に感じるかもしれない。

新しい研究によると、菌類の土壌微生物はホワイトノイズでエネルギーが増強される可能性があり、実験室で特定の音の周波数にさらされた微生物はより速く成長したことがわかった。

科学者たちは、科学誌「バイオロジー・レターズ (Biology Letters)」 に発表されたこの研究結果が、植物のマイクロバイオームで重要な支援的役割を果たす微生物の成長を促す音響技術につながり、ストレスを受けた生態系の再生に役立つことを期待している。

「人間は、音を空気中の刺激として捉えています」と、この研究には関わっていない北アリゾナ大学の森林昆虫学者リチャード・ホフステッター氏は言う。

他の動物も音に反応する。植物や単細胞生物は「聞く」ことができないが、しかし振動を感じることができる。

「植物や単細胞生物には耳も神経もありません」とホフステッター氏は言うが、音を構成する機械的エネルギーに反応するようだ。「それは光に似たエネルギーです」とホフステッター氏は言う。

ホフステッター氏の研究によると、イチゴなどの果物に生えるボトリティス・シネレアというカビは、冷蔵庫の音響振動によって成長が促進される。

音も大腸菌の成長を促進することがわかっている。どちらの研究でも、数千ヘルツ(Hz)の周波数が使われており、これは微生物が好むと思われる高音のハミング音だ。

他の研究では、シラー種のブドウから造られるワインに好ましい風味成分を生成する葉に住む微生物が、バロック時代や古典時代初期の音楽に反応することがわかっている。

微生物生態学者ジェイク・ロビンソン氏や修復生態学者マーティン・ブリード氏を含むフリンダース大学の研究者たちは、植物の成長を促進し、病気から守る働きがあることが示されている土壌微生物トリコデルマ・ハルジアナム菌の成長を音が促進するかどうかを調べることにした。

まず、80リットルのプラスチック容器の壁を吸音フォームのくさびで覆って、3つの防音ブースを作った。

次に、円形の菌の斑点をペトリ皿に接種し、2つのグループに分けた。

最初のグループは、実験中、防音ブース内に隔離しておいた。

2番目のグループもほとんどの時間ブース内に隔離していたが、1日に1回、研究者たちはそれを 3番目のブース内に置き、一種のリスニングステーションとして機能させた。

一度に 30分間、ペトリ皿は、約 8000Hzの周波数で単調なノイズを再生する Bluetooth スピーカーの上に置かれた。これは、以前に微生物の増殖を促進することが示されている周波数と似ている。

ロビンソン氏はその音を、古いラジオの局間のシューという音に例えている。5日間にわたって、科学者たちは各サンプルの増殖と、生成された明るい緑色の胞子の数を測定した。

ノイズ音に合わせて溝を作った菌類は、そうでなかった菌類よりも培養皿の中で増殖し、胞子を多く生成した。実験終了時には、菌類のバイオマスは未処理群の 1.7倍にまで増加した。

なぜそうなったのかは不明だが、ロビンソン氏はいくつかの仮説を立てている。

真菌の細胞壁には人間の皮膚の触覚受容器に似た機械受容器があり、音響振動がそれを刺激して真菌の成長に関わる遺伝子の発現を変化させる可能性があると同氏は指摘する。

別の可能性としては、音波の機械的入力が細胞内で電気反応(圧電効果として知られる)を引き起こし、同様に細胞シグナル伝達と遺伝子発現に影響を与える可能性があるという。

ロビンソン氏は、生態学者が音を再生して植物に優しい微生物の成長を促進し、ストレスのかかった生態系を支援するシナリオを思い描いているという。そのような応用は「基本的に未開拓」だと同氏は言う。

グラーツ工科大学で微生物叢を研究するガブリエル・ベルグ氏は、その研究の前に研究者たちは音が研究室の外で微生物にどのような影響を与えるか解明する必要があると警告する。

自然界ではトリコデルマ菌は複雑な集団で存在しており、研究者が流す音には他の多くの微生物もさらされるだろうと同氏は指摘する。「土壌には何千もの微生物がいて、反応し相互作用するでしょう」

ロビンソン氏は、チームが音がこれらのより広範なコミュニティにどのような影響を与えるかを調査する予定であるとして、以下のように述べている。

「土壌や植物の微生物コミュニティ全体に影響を及ぼすことができるのでしょうか。自然の音風景で地球を刺激することで、土壌の回復プロセスを加速させることができるのでしょうか」

________________________________________ ここまでです。

 

音と生物

今回のこの話は微生物の話ですが、少し前に、スウェーデンのスーパーが「クラシック音楽を聴かせて育てた果物や野菜の販売」を始めるという記事をご紹介したことがありました。

クラシック音楽を聴かせて育てると、種子の発芽率が 100%などになり、成長率が 30%以上高くなったというようなことが書かれてありました。

一方でさらに興味深い実験を、以前ご紹介したことがありました。

それは、

「熟成中のチーズの味が聴かせる音楽によって変わるかどうか」を試した実験でした。

以下の記事の前半にあります。

(記事)「音のパワー」が次第に明らかに : 「音波は《質量》を移動させている」ことを示した米国の実験。そして、 特定の音楽によりチーズの味が明確に変化することを明らかにしたヨーロッパの実験In Deep 2019年3月18日

これは、5つのそれぞれ異なるジャンルの音楽が流れている箱の中に、同じチーズを入れて、そのまま熟成させ、「 6カ月後」に、それぞれのチーズの味を専門家が確かめ、味に違いがあったかどうかを決めるという実験でした。

それぞれの音楽のジャンル(というより、それぞれひとつの曲)は、

・アンビエント

・クラシック

・テクノ

・ロック

・ヒップホップ

となっていまして、先ほどリンクした記事には、それぞれの曲の動画へのリンクも示しています。

チーズにレッド・ツェッペリンの「天国への階段」を聴かせるブース

結果としては、それぞれの箱のチーズに「明らかな味の違い」が出たという結果となりました。そして、チーズの専門家たちが最もおいしいチーズとしたのは「ヒップポップを聴いて熟成したチーズ」でした。

ヒップポップというか、正確には、ア・トライブ・コールド・クエストというユニットの Jazz という曲です。

ともかく、このチーズの味というのも「微生物の働き」によるものですので、今回のサイエンスで紹介された実験と同じ概念ともいえるのかもしれません。 

音については、他にもいろいろな驚くような事実を過去に知りました。

たとえば、

「正常な細胞とガン細胞は異なる音を発している」という研究をご紹介したことがあります。

(記事)…人間の細胞は「音を発している」。そして「ガンになると細胞の音の調和が崩壊する」ことを米英の研究者たちが突き止めるIn Deep 2020年1月22日

驚きましたのは、細胞が発するその音は「可聴域」、つまり人間の耳に聞こえる音域で発せられているようなのです。

あと、先ほどのチーズの記事の後半で取り上げたのですが、

「音は質量を移動させている」

ことを示した研究もありました。

> 米コロンビア大学の 3人の科学者たちが、音波が質量を運ぶことを示す、より多くの証拠を見つけた。

で始まる、ご紹介したその記事の最後は、以下のように締められていました。

多くの音は、数十億キログラムの質量を運んでいる可能性があり、それは重力場を測定する装置で可視化されるかもしれない。

phys.org

音と共に膨大な「質量」が全地球単位で運ばれているというようなこともあるというのが、この地球なのかもしれません。

音に関しては、さまざまな過去記事がこちらにありますが、音や光の存在というのが、なんだかんだと「地球の生物のシステムの根幹」であるとは思っています。

もちろん、その具体的な様相はわからないままですが、人体や他の生物たちに「良い音波」というものもあるだろう一方で、悪い作用のあるものも、おそらく、それなりにあるのだとも思います。

人類の生活というのは、本来そういう概念に基づいて作られるべきだったとも思います。つまり、植物の育成や、発酵食品の味にまで関係することで、あるいは「医療」にも大きく関係すること(参考記事)でもあり、現世が、こういう研究がもっと普通に理解されている世界だったらよかったのになあとも思います。

状況的に、現世では、今やすでにやや遅いという感じはありますけれど。