今回はIn Deepさんの2024年9月19日の記事を紹介します。
「新しい戦争への扉:スタックスネットからポケベル爆発までに見る「人類が経験したことのない攻撃」の時代の始まりに」
https://indeep.jp/the-door-to-a-new-war-opens/
レバノンで2日連続して爆発攻撃が発生。今度はトランシーバーからパソコンまで何もかもが爆発
前回の記事で、「イスラエルによるレバノンでのポケベル爆発攻撃」について書きました。
今度は、その翌日に、レバノン国内で爆発攻撃の第二波があり、今度は、トランシーバーや携帯電話やノートパソコンなど、さまざまなものが爆発し、450人が負傷し、死者は前日の第一波より多い 20人とされています。
太陽光発電システムや「指紋認証システム」というようなものまで爆発したことが報じられています。
もはやヒズボラも民間も関係のない無差別的な攻撃となっている様相をも見せ始めています。
以下は、レバノンで、一斉にさまざまなものが爆発する音をとらえた映像です。
これらの事件が発生した後、イスラエルのギャラント国防相は、ガザでのハマスとの数か月に及ぶ戦闘の後、「資源と戦力を転用することで、戦争の重心が北に移りつつある」と述べ、
「戦争の新たな段階の始まり」
を宣言したと報じられています。
「北に移りつつある」というのは、イスラエルの相手がハマスからレバノンに移行しつつあるということだと思われます。
こういうタイプの一斉攻撃を見聞したのは、私は初めてですが、現在までの状況をまとめていた軍事メディアの記事を、まずご紹介します。太字はこちらでしています。
イスラエルが戦争の「新たな段階」を宣言、レバノンで電子機器の爆発が増加
9月18日、レバノン南部サイダで爆発が報告された現場に集まった人々と救急隊員たち。
昨日、数千人のヒズボラ構成員のポケベルを狙った前例のない爆発があったレバノンで同様の爆発が再び相次いでいる。
2回目の爆発は、イラン支援のヒズボラの構成員が使用するトランシーバーを狙ったものとみられるが、さまざまな電子機器が被害を受けた可能性もあるとの見方もある。
イスラエルは 2日間の攻撃のいずれについても犯行声明を出していないが、イスラエルのヨアブ・ギャラント国防相は本日、北部戦線に重点を置いた戦争の「新段階」の開始を宣言した。
レバノン保健省の最新報告によると、本日レバノン各地の複数の都市で発生した爆発により、14人が死亡、450人以上が負傷した。死者のうち 3人は同国東部のベカー地方にいたとされる。負傷者の多くは昨日と同様に腹部や手に負傷を受けたと報告されている。
レバノン赤十字社は、レバノン南部と東部で発生した「複数の爆発」に 30台以上の救急車が派遣され、さらに 50台の救急車が救助・避難活動を支援するために待機していると発表した。
ヒズボラの情報筋は、この攻撃の性質を確認したが、これまでのところ、この攻撃はイスラエルによるものと広く考えられている昨日の一連の爆発の特徴の多くを備えている。
昨日、ポケベルが標的となり、2,800人以上が負傷、12人が死亡した事件と比較すると、今日の爆発は「規模は大きくはない」と報じられている。
今日の爆発の写真やビデオには、破損したり焼け落ちたりしたさまざまな通信機器が写っており、その中には日本企業アイコムの IC-V82双方向トランシーバー無線機も複数含まれていた。
爆発のうちの一つは、昨日殺害されたヒズボラメンバーの葬儀がベイルート南部で行われていた最中に発生した。
昨日の爆発を受けて、イスラエルがヒズボラが購入したポケベル数千台に小型爆発装置を仕掛けることに成功したとの報道があった。
国営通信社によると、今日、レバノン全土の住宅で太陽光発電システムが複数爆発したと報じられており、少なくとも 1回の爆発でレバノン南部のアルザフラニの町の少女 1人が負傷した。
こちらのツイートにあるような、指紋認証リーダーが爆発した写真もあった。
ロイターの報道によると、今日レバノンで爆発したトランシーバーの少なくとも 1つのモデルは製造中止になっていたが、ヒズボラは 5か月前にその荷物を受け取っており、昨日の爆発に関係したポケベルを受け取ったと思われる時期とほぼ同時期だったという。
これは明らかに、ヒズボラの手に渡る前にその機器が改ざんされていたことを示している。
それがどのように達成されたにせよ、今日の出来事は、より多くの種類の電子機器が爆発装置に改造された可能性があることを少なくとも示唆しており、攻撃がどのように計画されたのか、そしてさらなる攻撃が起こるかどうかについて、さらなる疑問が生じている。
このディストピア的な展開のより深い意味については、私たちが以前に長々と議論してきたことだ。
しかし、イスラエルが現在、さまざまな種類の電子機器を通じてヒズボラの構成員や関係者を標的にできるのであれば、過去 2日間の攻撃は、イスラエルがヒズボラに対して大規模な作戦を開始する準備ができていることを示唆している可能性もある。
これらの爆発はヒズボラの主要人物を戦闘から排除するのに役立つだけでなく、ヒズボラのコミュニケーション能力と指揮系統の維持能力を大幅に低下させる。
さらに、ヒズボラ内だけでなくレバノン国内にも恐怖と混乱をまき散らし、同グループのより自由な活動能力を低下させるという重大な要因もある。病院が負傷者で溢れかえることも、これらの爆発のもう 1つの影響であり、作戦前の敵軍に有利に働くだろう。
爆発によって生じた混乱を反映して、ヒズボラのメンバーが爆発しなかったトランシーバーから電池を必死に引き抜き、爆発した場合に備えて部品を金属の樽の中に入れているとの報道が今日あった。
当紙編集長のタイラー・ロゴウェイが指摘しているように、イスラエルがこのような異例の諜報能力に多額の投資をしていた場合、危険にさらされる差し迫ったリスクがあれば、できるだけ速やかに最大限に活用せざるを得なくなるかもしれない。
理想的な状況では、このような手段は、前述のように敵を弱体化させるために、大規模な軍事作戦の前か開始時に利用されるだろう。現在、イスラエルがまさにそのような作戦を開始しようとしている兆候がある。また、作戦が暴露されるのを恐れて、これらの装置の爆発が急がれたという報告もある。
イスラエルからは、国境に向けて大量の軍隊と装甲車が移動しているという未確認の報告など、ヒズボラに対するより協調的な作戦を開始する準備が整っている可能性を示唆する他の兆候も出ている。
イスラエル国防軍のヘルジ・ハレヴィ中将は、同国はヒズボラに対する追加行動の計画を立てており、攻撃の準備ができていると述べた。
ハレヴィ中将はまた、イスラエルにはまだ使われていない「多くの能力」があると警告した。
「我々はまだ発動していない能力を数多く持っている…我々はそのいくつかを目にしてきた。我々には十分な準備が整っているように思えるし、今後はこうした計画を準備している。各段階でヒズボラにとっての代償は高くなければならない」とハレヴィ中将は付け加えた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は本日の声明で、ヒズボラがロケット弾攻撃を強化した際にレバノンとの北部国境沿いの町から避難した数万人のイスラエル人を帰還させると誓った。
総合すると、これらの展開は、電子爆弾の爆発を急ぐ必要性に駆り立てられた可能性もあり、ここ数ヶ月で劇的に高まった緊張に煽られて、イスラエルとヒズボラの間で大規模な紛争が差し迫っている可能性を示唆しているのかもしれない。
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ここまでです。
今回の一連の攻撃は、「本格的なヒズボラとの戦争の前の準備」である可能性を指摘しています。
相手(ヒズボラ)を弱体化する、病院を負傷者であふれさせて医療機能を低下させる、レバノン国内自体に混乱をもたらす、などの効果を狙ってのものという感じなのでしょうか。
このような無差別的な攻撃は、国際法に反するような気もしないでもないのですが、ガザのときに十分にイスラエルは、そのようなことをしていますし、意外ではないのかもしれません。
爆発した機器の出所の曖昧さ
ちなみに、上の記事にあります、
> その中には日本企業アイコムの IC-V82双方向トランシーバー無線機も複数含まれていた。
というのは、今日の日本でも報じられています。
ヒズボラの機器爆発、日本のアイコム製トランシーバーか
日本経済新聞 2024/09/19
レバノンの首都ベイルートなどで 18日、親イラン民兵組織ヒズボラが使用していた通信機器が相次いで爆発した。
日本の無線機メーカー、アイコム製のトランシーバーである可能性が高い。アイコムは19日、「偽造品防止のシールが貼付されておらず、当社から出荷した製品かどうか確認できない」とのコメントを発表した。
ロイター通信などによると18日に相次いで爆発した通信機器には「アイコム」と「メード・イン・ジャパン」(日本製)と書かれたラベルが貼られていたという。
大阪に本社を構えるアイコムによると、2014年に製造・販売を中止した「IC-V82」というモデルの可能性があるという。ただ、偽造防止のためのホログラムシールが貼られていないため、自社から出荷した製品かは確認できないという。
さらに、昨日の記事でふれたことで、ポケベルの爆発事例のときに爆発したポケベルは、台湾に拠点を置くポケベル会社「ゴールドアポロ社」のものだとされていました。
しかし、ゴールド・アポロは「自社で製造したものではない」と声明を出し、ハンガリーの会社が生産、販売しているものだとわかりました。
何だか、爆発した機器の出所もどんどん曖昧になっていまして、こうなってくると、ヒズボラという部分を超えて、「中東にどれだけこのような攻撃装置が仕掛けられているのかもよくわからない」ということになり得ます。
中東、特に今回のレバノンにしても周辺国にしても、自国での通信機器の製造は行っていないわけで、ヨーロッパか東アジアなどから輸入した機器を使っています。
輸出するほうは正当でも、「途中でそれらの機器に何がなされるかまではわからない」ということにもなります。
さらに、ヒスボラは、セキュリティの観点から「独自の通信ネットワーク」を管理していることが知られていますが、そこもイスラエルに侵入されていたことになります。
社会全体を麻痺させる可能性のある無数の潜在的なサイバー攻撃
ところで、先ほどご紹介した軍事メディアの別の記事に、
「スタックスネット」
という言葉が記事のタイトルに含まれているものがありました。
これは、イスラエルがイランをターゲットにした「世界初のデジタル兵器」とも呼ばれていたもので、20年近く前からあるものです。
In Deep でもずいぶん前に記事にしたことがありましたが、探しますと、以下の 14年前の記事でした。
(記事)世界のインフラの終末を加速させるワーム Stuxnet (スタクスネット)
In Deep 2010年10月19日
そこでご紹介した記事には以下のようにあります。
> スタクスネットが最初に発見されたのは 2010年6月で、これは基幹産業の重要な基盤を狙うことに特化した世界最初のワーム(ウイルス)だ。
ここにある「基幹産業の重要な基盤」の最重要ターゲットは「核施設」です。
以下のような効果のある攻撃をなし得るものなのです。
…複製したワームを使用して、複数の原子力発電所に対して同時に仕掛けるとどうなるか。
同時刻に一斉に複数の原子炉でメルトダウンが発生する。
しかし、それだけではない。それと同時に、送電システムにもスタクスネットを侵入させ、原子炉の破壊と同時にすべての送電網をショートさせ、地域を完全な停電に追い込むこともできる。これで、非常事態は二重にも三重にも広がる。
In Deep
このことを念頭に置いておくとして、先ほどの軍事メディアは記事に以下のように書いていました。
記事「爆発するポケベルはスタックスネットと同じくらい大規模なサイバースパイ活動となる可能性がある」より
20年前、イランの核開発計画に対してイスラエルが直接関与した悪意あるソフトウェアワーム「スタックスネット」が配備されたことが、サイバー戦争の新たな現実を浮き彫りにしたのと同様に、今回の出来事も同じような影響を及ぼす可能性がある。
ワイヤレス接続機能を備えた日常的な電子機器を即席の爆発装置に変えるというのは、ディストピア SF のように思えるかもしれないが、実際にはそれほど突飛な話ではない。
…爆発物や焼夷剤は既に何十億個も世界中に散布されている。それらの爆薬に接続して作動させる可能性は、少なくとも理論上は既に組み込まれている。
適切なディバイスを標的にして実際に発火させるのは別の話だが、ディバイスによっては、何よりもソフトウェアの課題になる可能性がある。個人の電子指紋が添付された独自のディバイスを介して遠隔的に個人を標的にできるというのは、理解はできても前例のない概念でもある。
このような潜在的な運動エネルギー攻撃の機会は人類史上かつて存在したことがなく、敵が標的国で多数の電池に火を付けるだけでも、大規模かつ広範囲にわたる被害を引き起こし、生産性をほぼ停止させる可能性がある。
これは、社会全体を麻痺させる可能性のある無数の潜在的なサイバー攻撃ベクトルの 1つにすぎない。
twz.com
今回のヒズボラへの攻撃の重大性は確かだとして、それとは別に、イスラエルは、ここに書かれてあるような「人類が経験したことのないような戦争」への扉を開こうとしているのかもしれません。
イスラエルがその技術を持っているならば、他の国でも似た技術を持っている国は、おそらくいくつかはあるでしょう(多くはないでしょうが)。
今回のヒズボラへの攻撃に漂う終末感は、そのような「新しい戦争」の可能性を実際に見せられたこととも関係しているように思います。