2019年8月14日水曜日

1764「坐禅断食の理法9」2019.8.14

・坐禅と悟り
 悟りについて述べるのはおこがましいものです。禅では悟りという言葉を使った途端に、嘘をついたことになると言われえます。
 仏陀が教えを説いた頃から、悟りには四段階あるとされてきました。禅ではそれらを大大悟、大悟、中悟、小悟、と呼びます。小悟を何度も繰り返して、中悟になり、中悟を繰り返して、大悟に至ります。
 大中小の違いは悟った後の時間がどれくらい持続するかの差です。小悟は得た途端に直ぐに消えます。小悟が消えた後は悟る前よりもっと落ち込み、真剣に取り組む人は病に陥ることがあるほどです。これは禅病と呼ばれます。
 中悟は小悟に比べてもう少し長く続きます。大悟はさらに長く続きますが生涯維持されるわけではありません。大大悟と言う、一生涯続く悟りもありますが、そこに辿り着くのは普通は無理と言われています。一度の究極の悟りを求めても、それを容易に達せられるものではありません。小さな悟りを積み重ねることで、人は少しずつ前進して行けます。周りの人にも良い影響を与える事が出来ます。(以下省略)
 
 私は僧侶になってからの36年間で、小悟と中悟との中間位のレベルの悟りを経験したことが二度あります。(以下略)

 ところで、坐禅断食をすると宿便が出ますが、宿便が出る仕組みは自律神経の働きによるものです。小食にして坐禅し、ゆっくり呼吸をすると交感神経が作用します。すると腸が動いて宿便が出るのです。
 腸は脳よりも能力があり、記憶力もあります。断食を経験したら、その感覚を思い出しながら、ゆっくりした呼吸で坐禅すると、それだけで宿便を出すことができます。坐禅と言っても背中が伸びていれば良く、体制は問いません。横になっていても立っていてもいいのです。胸を膨らませないように下腹部でゆっくり呼吸をすると腸が働き出します。
 お寺で一汁一菜の生活をしていても、なかなか悟れないのは腸が動かないからです。腸が働くように食事や呼吸をコントロールすることで悟りに近づきます。
 
 坐禅中の呼吸は遅ければ遅いほうが良いです。15秒に1回よりも遅い呼吸をすると、血中酸素濃度が下がります。口からの呼吸が不足して皮膚呼吸の比率が上がります。ゆっくり呼吸しながら、しかも息を止めないでいると腸を働かせる交感神経が活発になりかなりの宿便が出ます。
 坐禅は安楽の法門と呼ばれ、意図的に苦しい呼吸をすることは邪道と考えられています。ただ余計な念想が無い時は、呼吸は自然にどんどんゆっくりなっていくのです。

 呼吸をゆっくりする為の方法に菜食があります。インドに二百万人いるジャイナ教徒を見ると分かりますが、彼らは小食で菜食でゆっくりした呼吸をしています。病人が少なく寿命が長いのです。ジャイナ教徒は断食を行う時、目を開けて体を動かさず、姿勢を起こしたまま鼻呼吸します。「ジャイナ」という言葉は「禅」という言葉の語源でもあるのです。
 ジャイナ教徒は宝石商等の商人であることが多く、嘘をつかない、駆け引きをしないことで知られています。彼らの経営理念は儲けではなく、徳を積む事にあります。人生の目的は徳を積む事で、その手段が仕事だと考えるのです。

 たとえカーストが低くてもその仕事に長けて極意をつかみ、悟りを得る事が仕事の目的と考えられているので、ビジネスにブレがありません。その為、インド社会での信用が厚くお金持ちが多いです。そんな彼らの唯一の修行法として選んでいるのが、断食である事は興味深く感じられます。
 断食は心と体を綺麗にします。短くても質の良い坐禅を覚えて心地よさを体験するということを皆さんにもお勧めしたいと思います。
 なお、結跏趺坐は神経伝達がスムーズになる姿勢です。結跏趺坐をした途端に体は禅のモードに入ります。とは言え、坐禅そのものは首の下が伸びていれば成立するものです。本人にとって難しければ、結跏趺坐にこだわることなく坐禅を体験して頂きたいと思います。