逆にそれが縮んでくると「鬱」の症状が出て来ます。鬱というのは脳と神経の伝達が悪い状態です。ですから鬱も腸の働きの悪化から引き起こされる病気であると言えるわけです。実際に断食で宿便を出すと、精神疾患が改善される例が多く、腸との因果関係を裏付けています。
ただ宿便はそう簡単に出て来ません。いろいろな人が試みて来ましたが、5日間の水だけの断食をして、2人に1人が半分くらいの宿便を出すのに成功すると言うのが今までの多くの例でした。
絶食によって腸管を空にすることで宿便を取ろうとしたわけですが、やはりこれだけでは不十分だったわけです。私達の「坐禅断食」が2日間で宿便を出せると言うのは、腸管が空になるのと平行して、腸の自律的な蠕動運動を促す為です。その鍵となるのが、断食をしながら行う坐禅です。
坐禅と似たものに瞑想がありますが、この二つには大きな違いがあります。最近、脳波以外に交感神経と副交感神経の作用をそれぞれ計測できる機器が開発されました。従来は相対的にどちらかの活動が優性かということしか分かりませんでしたが、新しい機器ではそれぞれの活動の大きさそのものが測定できます。緊張する時に働く交感神経と、リラックスする時に働く副交感神経の活動がそれぞれ個別に測かれるのです。
瞑想では、副交感神経が活動してリラックスしていますが、交感神経の活動はありません。寝ている時と同様のリラックス状態が生まれます。しかし小腸の蠕動運動というのは交感神経の活動がないと起きません。リラックス状態では動きません。リラックスしていて適度に緊張している状態で、小腸は一番いい動きをします。この状態が現れるのが坐禅をしている時なのです。
機器で計測すると一番いい値が出ます。坐禅断食は普通に断食する以上に宿便を取りやすい断食方法であるということがこれで分かります。
最初からこの論理が分かっていたわけではありませんが、坐禅を取り入れての断食に効果があることを実感し、30年間に渡ってその指導を続けてきました。今は私以外にも20名の指導者がいます。そのうち三分の一位は医師の方です。参加者にも医師が増え、医療機関でこの方法が使われることも増えてきました。それくらい顕著な効果があるという事です。今では私のやり方を取る断食道場が全国で20か所位あります。
坐禅断食をすることによって体質が変わり、物の考え方が変わります。また、人間本来の味覚を取り戻すという事にも繋がります。人間本来の敏感さが発揮されれば、体に良い食べ物が分かります。今は食べ物の能書きを鵜呑みにして、思い込みや刷り込みで食べている事も多いでしょう。しかし本当に良いもの、美味しいものを自ら感じ分かる能力が大切で、それを磨く事に断食は非常に約に立ちます。
断食を契機にして、食べ物との関わり方も変わってきます。食べ物への感謝が深まります。いろいろと頭で考えた理屈で、これは良い食事、これは悪い食事と判断している場合がありますが、頭で食べるのではなく、食べ物にまず感謝して、自分の体の声を聴きながら食べるという事が大切なのではないでしょうか。断食とはそう言った生き方、食べ方の出発点になります。