2018年12月25日火曜日

1529「坐禅断食3」2018,12.25

「農業を通じて幸せに」 野口法蔵
 インド三千年前から伝わる次の様なことわざがあります。
「体のことをやる時は、心のことを。 心のことをやる時は、体のことを。」
やはり逆のことからアプローチすると良く分かるということがあります。たとえば、「生まれる」「生きる」という事を考える時には、「死」を考えるという事です。それが理解の1番のヒントになります。だから、心の事を考えるとすれば、体の事を、食べ物のことを、それからそれを生み出す農業のことを考えていかなければなりません。
 
 私が農業のことを考える時、真っ先に思い出す出会いがあります。それは福岡正信という方との出会いです。かなり以前からの知り合いでしたが、私が興味を持ったのは、福岡先生の悟りでした。農業をすることによって悟れるのかと思いました。ですから、話し合う事も、技術的な事よりも、神についてであるとか、そういう話題が多かったものでした。福岡先生の農業哲学がこれから「食べる」「生きる」を考えるうえで、全ての人に重要になってくるだろうと思いました。

 福岡先生の影響で、日本国内でも様ざまな多くの人が有機農法、自然農法に取り組んでいます。川口由一さん、木村秋則さんに至るまで、連綿とその系譜は続いています。海外にも更に多くのバリエーションを伴って広まっていますが、福岡先生の考え方は確実にその源のひとつなっているのだと思います。

 最近、私は環境学者の辻信一さんと共著で本を書かせて頂きました。私が1番長くいたラダックという所と、辻さんが通い続けているブータン。このラダックとブータンという、インドの西の端と、東の端に国境を接している国。この2つの地域に暮らす人達が、世界で最も幸せ感を持っていると言われています。この人達から私達は何を学ぶべきかを考えるという本でした。ブータンは私も何度か行きました。また、ラダックはその後、スウェーデンのヘレナ・ノーバーク=ホッジさんが著書やドキュメンタリー映画で紹介して知られる様になりました。

 ブータンは幸せ度が世界1というのは有名です。何がブータンで幸せ感をもたらしているかというと、それは農業と仏教です。仏教はチベットなど他の地域にもありますが、違うのは農業への考え方です。そこで行われている農業は、ブータンで昔から行われていたものではありません。ブータンを幸せにした農業を広めたのは、1人の日本人なのです。60年前にブータンに渡り、30年前に亡くなった西岡京治さんという植物学者です。西岡さんはブータンで自給自足の種を作るという取り組みを始め、これは「西岡プロジェクト」と名付けられて今でも続いています。ブータン中の種がこのプロジェクトでまかなわれており、ブータンでは他国からの種は一切入っていません。この種で作った農産物はとても美味しく、例えばジャガイモなどは高値でインドに輸出されています。

 この西岡さんが亡くなる直前に、私はインドのカルカッタで短い時間でしたがお会いしました。西岡さんは最後にはブータンで農業大臣を務めました。ブータンを幸せな国にした農業をもたらしたのが日本人だったということは、日本ではあまり知られていません。しかし、日本人の発想でやったことですから、この日本でもやれないことは無いと思います。
 この農業と仏教とが結びついて、ブータンの有機農法が生まれました。よい食べ物を食べたいという人間のエゴから生まれたのではなく、土の中の生き物を殺さないために、農薬は使えないという発想がブータンのスタートです。土の中にいる生き物や、葉に着く虫のことも考える、そういう生き方をしている人たちの選んだ農法が有機農法なのです。