「梅雨前線に伴う大雨特別警報が出た近年の豪雨としては、平成29年7月の「九州北部豪雨」、平成30年7月の「西日本豪雨」があり、いずれも「線状降水帯の停滞」が大きな原因となっています。
・線状降水帯とは?
積乱雲が数十km以内の幅で長く連なりおよそ100km以上の長さに伸びた結果、降雨域が線状に細長く伸びて見えるもの。
・なぜ線状に降水域が連なるのか?
次々にたくさんの積乱雲が同じ場所ででき続ける「バックビルディング(後方形成)」が起こる条件が整うと、同じ経路で積乱雲が移動しながら発達した結果として、線状に降水帯が連なる。
バックビルディング(後方形成)の模式図
気象庁レーダーによって観測された熊本県南部で豪雨が発生していた際の気象庁レーダーによる降水強度分布(mm/h)(令和2年7月4日・日本時間午前2時15分)。気象庁のホームページよりダウンロードした画像に一部加筆。
・なぜ線状降水帯が南北移動しなかったのか?
梅雨前線を挟んだ南北の2つの高気圧がほぼ固定されており、7月4日の九州南部における気流の条件がほとんど変化せず、線状降水帯の位置を動かす要因がなかった。
気象庁による熊本県南部で豪雨が発生していた際の地上天気図(令和2年7月4日・日本時間午前9時)。気象庁のホームページよりダウンロードした天気図に一部加筆。
黄海からの冷たい空気の流れと太平洋南方から暖かく湿った空気の流れが、梅雨前線を南北方向に挟んで2つの高気圧によってもたらされています。九州付近の1004hPaの等圧線に注目すると、ほとんど緯線に沿うような東西方向に伸びていて、太平洋高気圧は多少東に移動しても南側の気圧配置がほとんど変わらない状況だと言えます。
一方で、梅雨前線の北側の黄海高気圧は、黄海の冷たい海面水温によって冷やされて形成されているので、もともと位置が固定されて動きにくい性質を持ちます。このように、梅雨前線を挟んだ2つの高気圧による気圧配置を広い視野で見てみると、東西方向へ多少のずれがあっても、梅雨前線の南北方向の位置がほとんど変わらない状況であることが分かります。
したがって、東シナ海から九州、西日本にかけての広い範囲で見たときに、南北の高気圧の位置関係は7月3日から4日にかけてほとんど変化せず、梅雨前線の位置は固定されてしまいました。このような広範囲で見渡した際の条件が変わらない中で、線状降水帯がバックビルディングによって維持されると、強雨域の南北方向の位置が固定されてしまいます。
・なぜ九州なのか?
九州北東部のメソ低気圧の西側で風が加速される効果が、もともと水蒸気の絶対量が多い九州西方の海上に対して作用すると、線状降水帯への水蒸気供給量が著しく大きくなる。
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20200706/