2019年1月19日土曜日

1554「会津11」2019,1,19

・未来へ手渡す農業システム
 高齢化・人口減少、地域経済の衰退、原発事故、TTP・・・マイナス札しか見つからない会津の農業を蘇らせる起死回生の策として、この前のコラムでもお話しした『会津農書』が使えないか、『会津農書』で会津農業をブランド化し高い付加価値のあるものにしていけないか、そう思い至って、去年(2015)からいろいろと動いています。
 国連の食糧農業機関 (FAO)が認定する世界農業遺産(GIAHS ジアス)という制度があります。どんな制度かっていうと、ユネスコの世界遺産とはまた別の制度で、農水省のサイトの説明を引用しておきましょう。
 「世界農業遺産(GIAHS)とは、伝統的な農業・農法を核として、生物多様性、優れた景観 等が一体となって保全・活用される世界的に重要な農業システムを、国連食糧農業機関 (FAO)が認定するものです。協議会等からFAOへの申請に基づき、概ね2年に1回、FAO による認定が行われています。」 日本でもすでに遺産登録された地域がいくつかあります。詳しくは、以下のリンク先でご覧になってください。
 この世界農業遺産に「『会津農書』に基づき脈々と営まれている循環型農業」を認定申請し、それを起爆剤にして、会津農業のブランド化と地域振興を図っていくことを考えています。
 このわたしたちのコンセプトの野心的なところは、滅びゆくものを保存してそのまま後世に伝えていこうというものではない点にあります。大半の世界農業遺産はそういう趣旨で認定されたものなわけですが、わたしたちのコンセプトは違います。
 『会津農書』に基づき脈々と営まれている循環型農業とは、太古からの農業技術を科学的に検証しまとめられた『会津農書』の精神を引き継ぎ未来へ手渡す農業システムである。
 つまり、江戸時代の地域循環型農業=『会津農書』の精神のルネッサンスなんですね。保存じゃなくて、現代科学の知見も加えて復興させるわけです。会津の自然・環境・景観、人々の生活と伝統文化、そして農業を中心とした様々の地域産業が一体となって循環型農業社会を構成しているというイメージです。
 想像してみてください。そんな地域って、いまの日本には存在しないでしょう?「未来へ手渡す農業システム」というところが要です、それを目指していこうと考えています。 

 もちろん、何もないところに、無理やりテーマパークみたいなものを作ろうとしているわけではありませんよ。「無」の会のやっている農法もその1つですが、地域循環型の農業を志し実践している有機農家もすこしずつ増えてきています。そして、酒蔵、会津桐、会津身知不柿などの地域産業も健在です。
 何よりも、会津には世界有数レベルの自然が残っています。世界にも稀な豪雪地帯であり、世界最大級といわれるブナの原生林が残っています。
 会津盆地を取り囲むの山の多様なミネラルを含んだ真土(まつち)、真土というのは岩石が砕けた土で、耕作に適した最良質の土壌を意味する『会津農書』の用語でもあるのですが、多雪はこの土を凍らせることなく保護して、雪解け水と共に有機物とミネラルを運んでくれます。与次右衛門が「重い水ほど農業に良い水だ」という、その水です。
 この恵みの水をもたらしてくれる山岳への信仰が生まれ、今にまで引き継がれています。磐梯山や飯豊連峰は会津の山岳信仰の一大拠点となり、周辺には多くの寺院・神社が創建され多くの参詣者を集めました。さらに、旱魃・飢饉の際には、山岳信仰の実践者である修験者が高山や川の深い淵で雨乞いをおこなったのです。
 お田植祭等多様な稲作儀礼が今も残り、ため池・堰を管理する会津独自の慣行も続いています。こうした自然環境と歴史とが今も息づき、数多くの生物種が生息する傑出した景観が生み出されています。
 これらはすでに存在しているものですが、これを結びつけて循環型の地域社会を復興させるために、堆肥・発酵液・ボカシの製造とそれによる有機農業を会津全域に広めていきたい。それがわたしたちの野心です。
概念図(「無」の会私案)
堆肥の原料は、酒粕・焼酎粕・山の土(ミネラル)・青草・米糠・ススキ等・モミガラ・家畜糞・摘果などです。発酵液の原料は、焼酎粕・酒粕・水・糖蜜・ミネラルなど。これで会津全域の農業を賄うには、どれだけの焼酎粕・酒粕が必要になるか計算してみると、
堆肥
1、地域内の農地面積=35,184ha
2、田面積=28,471ha 畑面積=6712ha
3、田への堆肥1haにつき2t(トン)施肥 56,942t必要
4、畑への堆肥1haにつき4t施肥 26,848t必要
5、合計83,790t必要となる。
6、堆肥1tに付き焼酎粕・酒粕は5kg使用するので合計418t必要となる。
発酵液
1、田に施肥する場合、1ha=15ℓ
2、発酵液1ℓに入れる焼酎粕・酒粕は20g程度
3、会津地域内のすべての田に施肥する場合
  発酵液=427,065ℓ 焼酎粕・酒粕量は8.5t必要
4、畑には、発酵液の希釈液を散布する。
 会津地域の酒蔵は30軒あって、年間約500tの焼酎粕・酒粕が産出されています。つまり、計算上は、会津地域内の農地に必要な、堆肥・発酵液の必要量はすべて会津地域内での循環によって確保することができることになります。
 想像してみてください。地域全体が有機農業の里となり、多様な生物が人と共存し、会津ならではの産業が互いに結びついて栄えている生き生きとした光景を。