◆産声を上げたときから
・産道にいる微生物
微生物は我々の遺伝子に組み込まれているものではない。微生物との共生は人間に利益をもたらすが、その微生物はどうやって子孫に受け継がれているのだろうか。子宮内部の羊水に浸かっているとき、胎児は無菌状態にある。しかし、破水と同時に外界との接触が始まり、産道を通るときに微生物のシャワーを浴びる。
新生児の腸内細菌の構成は、母の膣内と最も近い。大人の腸内と違い、病原体を殺す役割をする乳酸菌の割合が高い。ヒトは赤ん坊を守るため、膣に大切な微生物を待機させておくよう進化してきたのだ。先進国ではお産の三割程度が帝王切開で行われるが、帝王切開で生まれた子は感染症やアレルギー、さらには自閉症や肥満になりやすいというデータもある。もちろん帝王切開は緊急時には必要となる大事な出産手段だが、子どもの健康上の影響についても知っておきたい。
・母乳の中にいる微生物
オリゴ糖を含む食品は大人の食事には必要ないが、出産直後の母乳にはオリゴ糖が含まれている。これは赤ん坊の腸内にはオリゴ糖を特殊な酵素に分解して免疫系を発達させる細菌がいるからである。赤ん坊の腸内細菌はとても不安定なため、出産直後には母乳が欠かせない。そして、赤ん坊の成長に応じて母乳に含まれるオリゴ糖の含有量は減っていく。
また、母乳には母親の腸内にいるのと同じ細菌も含まれている。血液を通して細菌が腸内から母乳に移動しているのだ。さらに驚くべきことに、母乳の成分は出産方式によっても違う。陣痛を経験した母親の母乳は、陣痛が始まる前に計画的な帝王切開で出産した母親の母乳よりも微生物が豊富なのだという。
では、粉ミルクで育つ赤ん坊はどうなのだろうか。粉ミルクで育つ赤ん坊は感染症にかかりやすい。乳幼児突然死症候群で死亡するリスクも二倍だ。そして、皮膚炎や喘息、過体重にもなりやすい。
我々は、粉ミルクよりも母乳の方がいいということは感覚的に分かっているものの、母乳をあげないとどうなるのかについてはあまり知らない。子どもに受け渡す遺伝子を変えることはできないが、受け渡す微生物は選ぶことができるということをもっと考えるべきだろう。
◆微生物生態系を修復する
・微生物は補助食品として補充できるのか
ここまで読めば誰もが自分の腸内のバランスを整え、いい微生物を保有したいと思うだろう。そのためには何をすればいいだろうか。ひとつにはプロバイオティクスと呼ばれる細菌を口から摂取するという方法がある。スーパーでよく目にするヨーグルトがいい例だ。
ヨーグルトを食べるといい影響があるかと聞かれると答えはイエスだが、目に見えるほどではない。ヨーグルトに含まれる最近は一〇〇億個ほどだが、腸内細菌は一〇〇兆個もある。また腸内細菌は種類も豊富なので、ヨーグルトに含まれる限られた細菌が影響を与えるのは簡単ではない。
・他人の糞便を分けてもらう
抗生物質の治療により腸内細菌が死滅してしまったような場合はどのように修復すればいいだろうか。そんな場合にいま注目を集めているのが、糞便移植だ。想像するとほとんどの人が顔をしかめるだろうが、他に方法がなく、瀕死の状態の人はどんなことでも試したいと願う。
実際に、糞便移植によって劇的に回復をしたケースは数多くある。しかし、移植は誰のものでもいいというわけではなく、持病がないなどという輸血と同様の条件のほか、過去に抗生物質の治療を受けていないという厳しい条件もある。欧米では適合する人物は1%もいないと言われており、理想のドナーを探すのはまだまだ困難な状況だ。
プロバイオティクスはマイクロバイオータを通して制御系T細胞を活性化する(敵がいないことで不安定な免疫細胞を沈静化できる=アレルギーやリーキーガットがおさまる)
糞便移植はすばやく効果的にマイクロバイオームを健全化する手法。
プロバイオティクスにはプレバイオティクス(細菌のエサ)をセットで使用する。