2018年8月17日金曜日

1399「体質改善2」2018,8,17

◆あらゆる病気は腸からはじまる
・カロリー計算で体重コントロールはできない
 地球上の成人の三人に一人は過体重で、九人に一人は肥満だ。欧米では三人に二人が過体重で、その半分は肥満だ。なぜこんなことになってしまったのだろうか。世の中ではさまざまなダイエット法があるものの、確実に痩せられる方法は今のところ外科手術により胃を小さくする方法しか見つかっていない。
 マイクロバイオータの研究者によると、同じ量の餌を与えても、太ったマウスは痩せたマウスより多くのカロリーを吸収しているという。それらのマウスの腸内細菌を調べると、細菌の組成比に特徴があることが分かった。摂取カロリーはどれだけ食べるかでなく、腸内細菌がどれだけ分解し、腸が吸収するかによって決まる。

・心を操る微生物
 ある少年は、一歳のときに耳に感染症ができ、抗生物質で治療を行った。それまでは健康体で育ったものの、治療中からよく下痢をするようになり、奇行も目立つようになった。二歳になるころには重度の自閉症と診断された。
 生まれたときには正常だったのにそれはおかしいと感じた母親は、いくつもの文献や論文を読み漁り、息子は抗生物質で体内の細菌を殺している間に破傷風菌に感染してしまったのではないか。そして破傷風菌が腸に入って下痢を引き起こすだけでなく、何らかの形で脳にも達したのではないだろうかとの仮説に至った。
 何十人も断られた後にその話を信じてくれる医者をなんとか見つけ出し、破傷風菌を殺す抗生物質を投与してみたところ、なんと少年は正常な状態を取り戻したのである。自閉症だけでなく、統合失調症などと診断される病気も腸内細菌の組成比が影響しているという研究結果が出たのはごく最近のことだ。

・「衛生仮説」の不備
 花粉症をはじめとするアレルギーも二一世紀病のひとつだが、その原因はまだ特定されていない。衛生水準の向上により昔に比べて免疫系の出番が減ったため、力を持て余した免疫系が花粉のような無害なものまで攻撃するようになった、というのが「衛生仮説」であり、現在の世の中で支持されている。
 しかし、この仮説には弱点がある。病原体や寄生虫が不在のとき、他に免疫系の標的になりそうな微生物はたくさんいるのになぜ花粉が標的になってしまうのかということだ。ひとつ言えることはヒトの免疫系も単独に進化してきたものではなく、微生物と共に育ってきたシステムだということだ。つまり、微生物生態系のバランスが崩れると免疫系のバランスも崩れてしまうのである。「衛生仮説」ではなく、二一世紀病を抑えるためには微生物の力が必要だという説を唱えるべきときがきた。

◆微生物生態系への理解を深める
・抗生物質が微生物集団の構成を変える
 二十世紀の初めにフレミングがペニシリンを発見して以来、抗生物質が我々を感染症の危機から救ってくれたことはもはや説明するまでもないが、抗生物質は体内のマイクロバイオータに対してはどのように寄与しているのだろうか。
 抗生物質は感染症を引き起こしている細菌だけでなく、関係のない細菌まで大量破壊してしまうことがある。先に述べた自閉症児の例以外でも、過去に抗生物質を処方されたことのある子どもは過体重になりやすかったり、喘息やアトピー、花粉症になりやすかったりといったデータもある。もちろん、抗生物質のすべてが「悪」というわけではない。無数の命を救い、多くの苦しみを防いできた抗生物質だから、そのメリットとデメリットを天秤にかけてから使うか使わないかを決めるべきだろう。

・微生物に必要な餌をやり忘れていないか
 肥満の原因を探るために、何を食べたかではなく腸内細菌の組成比を知る必要があることは先に述べたとおりである。アフリカの僻地の子どもと先進国の子どもの食生活を比較すると、目立つのは先進国の子どもの食べる脂肪と糖の多さだ。しかしどれだけ調べても、脂肪や糖を食べる量と体重の増加の関連性は見つからなかった。
 そこで改めて二地域の子どもの食生活を比べると、摂取量が明らかに違ったのは食物繊維だった。アフリカの僻地の子どもの摂取する食物繊維は多く、先進国の子どもは少ない。アフリカの僻地の子どもは食物繊維を分解する腸内細菌を数多く持っており、この細菌の組成比が体重の増減に影響を与えていることが分かった。