2018年6月8日金曜日

1329「祈り旅10」2018,6,8

―― 東北地方で和人と戦ったことで知られる首長に、阿弖流為(注:アテルイ。生年不詳~802年。789年に奥州に侵攻した朝廷軍を撃退したが、征夷大将軍の坂上田村麻呂に敗れて処刑された)がいます。
 蝦夷との戦で、田村麻呂は北上川が朱色に染まるほどアイヌを殺害しましたが、川面にうつる自分の姿を見て、自分もアイヌの血をひいていると気づいたという伝承があります。田村麻呂の父親は、蝦夷でアイヌの女性を身ごもらせ、生まれたのが田村麻呂だったのです。
 田村麻呂は「これ以上アイヌを殺さないでほしい」と帝に頼み、和睦のため阿弖流為を京都に連れて行きますが、朝廷は阿弖流為を殺害しました。 阿弖流為もシャクシャインも、和平交渉を口実に呼びだされて、殺されています。
 和議といって油断させてから殺害するのが、日本のやり方でした。シャクシャインの蜂起のときも、「食糧をやるから和議をしよう」と呼びだして、食べものを取りに来たアイヌを反対側から槍で突き殺すとか、和睦の宴で毒殺するということが、頻繁におこなわれました。 アイヌは好戦的ではなく、だまし討ちという文化はなかったので、力は強くてもひとたまりもありませんでした。
<天外さんのコメント:アイヌは文字をもたず、言葉に信を置きます。「和平しよう」と言われたら、その言霊を信じます。和人にとって謀殺は戦術の一つでしたが、アイヌにとって奸計や暗躍は想像できないことでした。>

―― 私はアイヌの文化、歴史、物語の伝承者であり、語り部です。後継者が少ない中、機織り、草木染、薬草など、アイヌ文化を取りもどすため懸命に活動してきました。 アイヌは文字をもちませんが、記憶力が優れていました。私の母は、5,6代前の先祖のことも詳しく覚えていました。かつては、30分、1時間、ときには夜明けまでかかるストーリーを、親が子に囲炉裏端で伝承してきました。テーマはすべて道徳教育です。アイヌの伝統的な教育は、修身から始まったのでした。
 口承で文化をつないできた先祖はすばらしいですが、私は公にしていい物語なら書きとめようと考えています。特に薬草については、本として記録に残すべきという信念があります。アイヌの薬草の知識には、さまざまな病気を治す可能性があり、苦しんでいる人を助けたいのです。お年寄りから聞いたことをもとに酵素をつくり、希釈率など自分の体で実験しながら、研究をまとめているところです。

―― 20年ほど前に亡くなったアイヌ文化の伝承者(おりたすてのさん)から、「学者には話していないが、お前にだけは話せる」と教えられた話があります。そのかたは、こう語りました。
「私が死んで10年、20年したら、大きな喜びに選ばれる人たちと、大きな悲しみにもっていかれる人たちが、同時進行で現れるだろう。 選ばれた人たちには、地球をもとに戻すために努力するという、苦労がある。一方、悲しみにもっていかれる人たちもいるが、のこされた者は悲しむことはない。それが親でもきょうだいでも、彼らは必ずあなたたちのもとに戻ってくる。魂は永遠に不滅だから、彼らは女性の子宮を借りて戻ってくるだろう。 カムイは、正しいことを教える父と、正しいことを教える母を必要としている。壊れた魂を戻すには、その方法しかない。だからカムイは、そのような仕掛けをするのだ」
 そのかたが言っていたのは、いまの状況のことだと思います。私たちは、それを祈りによって成し遂げようとしているのです。
<天外さんのコメント:日本にはかつて、アイヌや出雲族など様々な民族がいました。出雲族はインドから日本に移動し、出雲王国をつくりあげた一族ですが、虐殺されて王国の存在すら封印されています。悲惨な過去は、日本を統一した天孫族の歴史書には記されていません。歴史書は、戦に勝利した側が都合のいいように書き換えるからです。
 しかし、各地にのこる口承の歴史は、それらの片鱗を伝えています。たとえば、鬼や天狗などの伝承は、アイヌの縁であることが多くあります。矛盾する伝承が山ほどあり、真実はわかりません。とはいえ、葬られた歴史の中で封印された怨念は、解いていかなくてはなりません。慰霊の旅は、レラさんやぼくが生きている間には終わらないので、この記録を次世代につなげたいと考えています。>

 この日は、口羽和尚の歌いあげる見事な「イヨマンテの夜」を聴くこともでき、ご参加の皆さまには忘れられない夜となったことでしょう。口羽和尚は長年アイヌの供養にとりくみ、釧路コタンのかたを招聘して本州で初めてアシリチェップノミ(注:新しい鮭を迎えるためのアイヌの儀式。神からの贈りものに感謝する)をおこなうなど、アイヌとは深い関わりがあります。
 ご縁のある方は、引き続きおこなわれる「日本列島 祈りの旅」にご参加いただけたらと思います。
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